わたしたちは去る2021年10月1日より10日までの2週にわたる金土日の計6日間、場所は新潟市のギャラリー跡地にて「 Exhibition "東京" 」を開催いたしました。今夏に製作した小冊子東京にまつわる言葉と写真の展示です。

ギャラリー跡地は、かつて眞野時計店、BOOKS f3があった場所です。時の歩みを感じることができる場所で私たちは東京というわたしたちの現在地を展示致しました。




ⅰ 高架下


 なぜか。一体全体、なぜ東京だったのか。理由はあって、ない。


特異 普遍 相対 記憶 存在 分断 瞬間 帰属 消費 努力 想像 創造 騒々 空想 情緒 混乱 圧迫 伸縮 強制 苦痛 快楽 忘却 実像 言論 消点 均一 啓蒙 触発 投影 実像 寓意 誘惑 教訓 解釈 逸脱 事象 事情 比較 形態 条理 外野 認識 差異 象徴 共感 忘却 細部 緊張 実存 抑圧 近代 構造 社会 集団 他者 所属 個人  


 東京は街か。と聞かれた時のわたしの返答は、東京は東京という状態・状況だろう、という解だった。答えの方向性は、今も変わっていない。東京とは何々だ、とは今は言えない。

 だから考える。一体、東京とは何か。

 東京はどこにあるのか。どこに行けば東京を見ることができるのか。東京を東京たらしめるものは、どのようなものか。


 よく見えていたつもりだったのに、改めて働きかけるとたちまちぼんやりしてくる。だから、反対側に立ってみる。東京は他とどのように異なるか。


 東京とそれ以外。「それ以外」に差はあれど東京でないものはすべて、東京以外、として成立する。

 それほどまでに東京という線引きは強い。近年益々強まっているようにわたしには感じられる。



 そしてもう一つ外側には、日本とそれ以外、という視座が存在している。




ⅱ  ある路地


 どこからきたのかと言えば、完全な偶然と不完全な必然に他ならない。今でなければ、と何かに追われて、どうにか線をなぞった。その冊子に我々は「東京」と名付けた。


 場所でも記憶でもないどこにもない東京が、立ち上がる音がした。その夜からも、すでに幾つかの時がやってきて、みなもれなく過ぎ去った。






ⅲ  水面


 まずやってくるのは、いつでも夜。闇はそのうち明けていき、日が差し込んで、また夜になる。


 永遠とも思われるくらいに、飽きることなくその繰り返しを行っている。

 ただ一度たりとも同じ日は差さず、暗さの中で見えるものはすべて悠久のもの。そこに現在の光は、ない。


 繰り返しの構図自体は世界中他のどの場所とも変わらないのに、ここには特別な何か、があるように思われてならない。




ⅳ べつの水面


 唯一東京だけが、東京という主語を持つことができる。



ⅴ 何者かの横顔


 白だった。跡地の前を過ぎ去った蝶は、白かったのだ。


 ただ一匹、落ち着きなく一心に舞っていた。止まることを選ばれた葉があって、選ばれなかった葉があった。楽しんでいるようにも、困っているようにも見えた。狂っているようにも、謳歌しているようにも見えた。全く知らないものにも思えたし、馴染み深いもののようにも思えた。

 跡地の目の前の花壇を通り過ぎた蝶は、大きな交差点の方へと歩みを進めていった。やがて小さくなって、もう目では追えなくなった。わたしはその場から、動かなかった。


 蝶は線を描いた。これまで誰も見せてくれなかった初めてのものだった。そして言ったのだ。この先を描いて見せて、と。わたしに向かって、確かにそう言ったのだ。

 描くよ。まずはあなたのことを。あの場所でわたしが見たあなたを。ことばは、あなたにさようならを告げるためにあるわけではないから。